高村文学のひとつの頂点として挙げられるのが、警部補・合田雄一郎を主人公とする一連の警察小説群である。なかでも『照柿』は、東京の猛暑と都市の倦怠感、そして人間の情念がドロドロと溶け合う傑作として名高い。
組織の一員としての警察官の日常業務を極限までドライに描き出す一方で、合田個人の精神的危機や幼馴染との因縁が容赦なく炙り出される。警察という巨大組織の軋みと、一個の人間のどうしようもない業が交錯する様は、いわゆる勧善懲悪のミステリーとは完全に一線を画している。読者は謎解きの快感ではなく、人間の内面に広がる底知れない闇を覗き込むスリルに戦慄することになる。