谷川俊太郎の『朝のリレー』が世に出たのは、1968年に刊行された詩集『旅』(求龍堂)でした。当時の日本は高度経済成長期の只中にあり、アポロ11号による人類初の月面着陸(1969年)を目前に控え、人々の宇宙や地球に対する認識が劇的に塗り替えられつつあった時代です。詩人が自著やインタビューでたびたび述懐しているように、彼はデビュー作『二十億光年の孤独』以来、常に地球を宇宙空間に浮かぶひとつの天体として俯瞰する特異な視座を持ち続けていました。
この詩が学校の教室を飛び出し、一般社会で再び爆発的な脚光を浴びた契機が、2000年代初頭に放映されたネスレ日本「ネスカフェ」のテレビCMです。朝の柔らかな光が差し込む街並みとともに、静かに響くフレーズの朗読音声が視聴者の耳目を引きつけました。「あの心地よいCMの詩は誰の作品なのか」と問い合わせが殺到し、すでに大人になっていた世代が教科書の記憶を鮮烈に呼び覚まされたのです。
教育現場においても、光村図書出版の中学1年生向け教科書『国語1』の巻頭単元などで数十年にわたって採択され続けています。中学校に入学したばかりの生徒が最初に出会う現代詩として、これほど長く親しまれている教材は極めて稀有です。子どもから大人まで、世代を超えて鑑賞され続ける背景には、時代がどれほどデジタル化しても色あせない「人間の普遍的な営み」が描かれているからに他なりません。