公用車にまつわるインターネット上の言説には、感情論に基づく誤認が散見される。その筆頭が「公用車は全廃し、首長も全員電車移動かマイカーにすべきだ」という極論である。これは一見すると税金削減の正論に思えるが、危機管理の観点からは致命的なリスクを孕んでいる。
第一に、大地震や広域水害などの突発災害が発生した際、公共交通機関は即座に運行停止へ追い込まれる。その際、首長が身動きを取れず登庁が数時間遅延すれば、初動救命活動の決裁が遅れ、失われる住民の生命と財産の被害は公用車の維持費などを遥かに上回る。公用車は平時の移動手段であると同時に、衛星電話や無線機、防護服を常備した「移動防災拠点」としての機能を担っている。
第二に、「カーシェアやタクシー配車アプリを使えば安上がりになる」という意見も、都市部と地方では実情が異なる。深夜・早朝の突発事案や、通信インフラの途絶した山間部への移動において、民間サービスが確実に車両を配給できる保証はない。完全な外部依存は、行政機能の継続性(BCP)を根本から脅かす危険性を孕んでいる。
【プロの結論】行政ガバナンスと社会的信託から見出すべき教訓
公用車の是非を判断する本質は、「高いか安いか」という金額の多寡ではなく、「その支出がどのような社会的便益を生み出しているのかが透明に説明されているか」という点に尽きる。威厳を誇示するためだけに選ばれた高級セダンが住民の怒りを買うのは当然の帰結である一方、危機管理と公務効率を極限まで追求した車両選定であれば、一定のコストは行政インフラとして正当化される。
今後、自治体に求められるのは単なる車種のダウングレードではない。運行ログのオープンデータ化、私用と公用の区分ルールの明文化、そして情報公開請求を待たずに走行実績を定期公開する姿勢である。税金という市民の信託によって走る車である以上、ガラス張りの運行管理こそが、公用車を巡る不毛な疑惑を断ち切る唯一の解法となる。