瀬尾まいこの作家人生を振り返るうえで、講談社より刊行され吉川英治文学新人賞に輝いた『幸福な食卓』を外すことはできない。「父さんは今日で父さんを辞めようと思う」という衝撃的な告白から幕を開けるこの物語は、家庭という最小単位の共同体が揺らぎ、再構築されていく過程を軽妙なユーモアと切なさで描いた初期の傑作だ。
瀬尾作品の真骨頂は、食事のシーンとテンポの良い会話劇にある。崩壊しかけているように見える家族であっても、朝になれば同じテーブルで卵焼きを食べ、言葉を交わす。完璧な人間など一人もいない。どこか欠落を抱えた登場人物たちが、それでも日々の営みを放棄しない姿に、読者は救いを見出す。当たり前の日常が持つ尊さと、そこに潜むささやかな狂気を見逃さない観察眼は、デビュー当時から一貫して彼女の創作の核となっている。