歌舞伎の家系図を丹念に読み解くと、テレビや映画で誰もが知る著名人が、梨園の濃密な閨閥の一部であることが浮き彫りになります。
代表的な存在が女優の松たか子です。彼女は二代目松本白鸚の次女であり、十代目松本幸四郎の実妹にあたります。兄の幸四郎、甥にあたる市川染五郎とともに、高麗屋の直系として芸能界の頂点で活躍しています。また、音羽屋の七代目尾上菊五郎の長女である寺島しのぶは、ベルリン国際映画祭最優秀女優賞(銀熊賞)を受賞した世界的女優であり、その長男である尾上眞秀(まほろ)は日仏両国のルーツを持ちながら歌舞伎役者として初舞台を踏み、大きな注目を集めました。
さらに興味深いのが、歌舞伎界と天皇家・旧皇族・公家華族との歴史的な結びつきです。「なぜ伝統芸能の家系が天皇家とつながるのか」という疑問の真相は、近代以降の婚姻政策にあります。
明治から昭和初期にかけて、社会的地位の向上を目指した歌舞伎界の重鎮たちは、旧華族や公家・大名家との縁組を進めました。例えば、十四代目片岡仁左衛門の妻は公家・子爵家の出身であり、各名門の親族を辿ると、久邇宮家(香淳皇后の生家)などの旧皇族や、旧五摂家につながる華麗なる閨閥が存在します。芸の頂点を極めた役者たちが国家的な文化財として遇されるなかで、特権階級との婚姻関係が自然と形成されていった背景があります。