ネット上のQ&Aサイトや動画コンテンツでは、高所恐怖症に関して医学的根拠の薄い危険な言説が散見されます。正しい知識を持たずに誤ったアプローチを試みると、かえって恐怖症を悪化させ、難治化させるリスクがあるため警戒が必要です。
誤解1:「ショック療法としてバンジージャンプを飛べば一発で治る」
「無理やり極限の高所に身を置けば慣れる」という体育会系的な根性論は、脳科学の観点から極めて危険な暴論です。恐怖の処理を担当する偏桃体に耐え難いトラウマ体験を刻み込むことになり、高所恐怖を「恐怖症」から「外傷後ストレス障害(PTSD)」へと重症化させる恐れがあります。後述する「暴露療法」は、安全を完全に確保した状態で、極めて微小な負荷から段階的に慣らしていく緻密な医療プログラムであり、無謀な度胸試しとは根本的に異なります。
誤解2:「高所恐怖症は三半規管が弱い人の病気である」
乗り物酔いしやすい人が高所恐怖症になりやすいという俗説がありますが、これは正確ではありません。むしろ近年の神経生理学的研究では、三半規管が鋭敏で身体の傾きを高精度に察知できる人ほど、視覚との不一致に敏感に反応して強いめまいを起こしやすいことが分かっています。つまり、あなたの三半規管が劣っているのではなく、入力された高精度の感覚情報を脳が処理しきれずに警報を鳴らしている状態なのです。
誤解3:「高い場所から吸い込まれそうになるのは自殺願望があるから」
手すりの近くに立った際、「飛び降りてしまうのではないか」という衝動のような感覚に襲われ、自己嫌悪に陥る人がいます。心理学ではこれをハイプレイス現象(高所現象)と呼びます。脳が「落下を避けろ」という強烈な生存本能のシグナルを発した際、意識がそのアラートを「飛び降りたい衝動」と後付けで誤解釈してしまう認知のエラーに過ぎません。深層心理の自殺願望とは無関係であることが証明されています。