昭和から平成の音楽史を築き上げた巨匠・阿久悠。彼が髙橋真梨子のために書き下ろした「はがゆい唇」は、歌謡曲の伝統的な情緒と、自立した大人の女性像が交錯する極上の心理ドラマだ。阿久悠といえば数々のヒット曲で知られるが、本作で見せた言葉の技巧はまさに異彩を放っている。
「はがゆい」という感情は、単なる悲哀ではない。相手を愛おしく思いながらも、思い通りにならない焦燥感。素直になれないプライドと、それを覆しそうになる情熱の格闘だ。阿久悠は、日常の何気ない身体的しぐさである「唇を噛む」「唇が焦れる」といったイメージを巧みに連鎖させ、言葉にできない官能と切なさを詩として定着させた。この知られざる作詞の舞台裏には、歌唱者である髙橋真梨子の圧倒的な表現力に対する、作詞家からの全幅の信頼があったと言われている。2026年の最新視点で改めて読み解くと、その一言一言に宿る重みに息をのむ。