壽城の心臓部といえるのが、名物「とち餅」の製造ラインだ。ガラス越しに見える工程には、最新鋭の衛生管理システムと、気の遠くなるような伝統的手法が同居している。そもそも栃の実は、そのままでは強い渋みと毒性があって口にできない。灰汁(あく)を使い、水に晒し、気の遠くなるような時間をかけてエグ味を抜く。先人が飢饉を生き抜くために編み出した山間部の知恵だ。
「このアク抜きだけで丸一ヶ月を費やします」と、白衣をまとった職人は語る。効率化の波で多くのメーカーが既製品のペーストに頼る中、自社で厳選した国産栃の実を仕込み続ける姿勢は揺るがない。きめ細かく搗き上げられた餅に包まれるのは、北海道産小豆を丁寧に炊き上げた特製餡。口に含んだ瞬間に広がる独特の香ばしさと、控えめな甘さのコントラストが、現代人の疲れた舌を覚醒させる。