化学物質の処理現場で頻繁に用いられる水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)ですが、フッ化水素酸の中和において安易に使用することは極めて危険です。最大の要因は、中和反応に伴う発熱の激しさとフッ化水素特有の物性にあります。
フッ化水素(HF)の沸点は約19.5℃と、ほぼ室温付近に位置しています。フッ化水素酸と強塩基である苛性ソーダが反応すると莫大な中和熱が発生し、液温は瞬時に沸点を超えて突沸を引き起こします。その結果、目に見えない無色で刺激性の強いフッ化水素ガスが作業空間全体へ爆発的に揮散し、作業者の呼吸器系や眼球に不可逆的な損傷を与える事故が後を絶ちません。
さらに、苛性ソーダとの反応生成物であるフッ化ナトリウム(NaF)は水溶性であり、液中に猛毒のフッ素イオンがそのまま残留します。これでは排水中のフッ素濃度を低減できず、環境汚染の観点からも無意味な処理となってしまいます。フッ化水素酸の中和においては、発熱が穏やかで、なおかつフッ素を水に溶けない形に変えるカルシウム系中和剤の選定が絶対条件となります。