福田和子の15年にわたる逃亡生活の中で、最も大胆かつ異様な局面として語り継がれているのが、石川県を舞台にした逃亡劇です。彼女は美容整形を繰り返して顔を変え、偽名を使って各地のスナックを渡り歩いた後、石川県金沢市へ辿り着きました。
金沢市内のスナックで働いていた福田は、客として訪れた金沢おでん屋の店主に見初められ、同居生活を開始。しかし、その後さらに石川県能美市にある老舗和菓子店(創業100年を超える名店)の主人と深い仲になり、後妻のような形で和菓子店の帳場や店舗の切り盛りを任されるようになります。地元で「気配りのできる明るい女将」として完全に溶け込んだ福田和子は、そこで信じがたい行動に出ました。遠く離れた愛媛に残してきた長男を、石川県へ呼び寄せたのです。
呼び出された長男は、母親が全国に指名手配されている福田和子その人であることを認識していました。しかし、母の強い懇願を受け、偽名を使っていた母の「甥」や親戚筋という名目で和菓子店に入り、和菓子職人の見習い・従業員として住み込みで働き始めました。朝早くから仕込みを手伝い、実直に働く長男の姿は、店主や周囲の近隣住民からも「真面目で礼儀正しい青年」として高く評価されていたと記録されています。
逃亡犯である母と、その秘密を共有しながら他人の家で従業員として働く息子。偽りの平穏といつ警察に踏み込まれるか分からない極度の緊張感が同居する、異常な生活が約3年間にわたって続きました。この能美市での暮らしこそが、福田和子の15年に及ぶ逃避行の中で唯一、肉親との情愛を取り戻した時間であり、同時に長男を共犯的心理の檻に閉じ込めた時間でもありました。