日本における性教育やカップルの性意識を語る上で欠かせない歴史的転換点があります。それが1965年に刊行された医師・謝国権(しゃ・こっけん)氏による著書『性生活の知恵』(光文社カッパ・ブックス)です。
当時、性は「口にするのも恥ずかしいタブー」あるいは「男性主導の快楽」として扱われがちでした。その風潮に対し、謝医師は産婦人科医としての医学的知見に基づき、女性の身体の仕組みや心理、相互理解の大切さを平易な筆致で説き明かしました。この画期的なアプローチは瞬く間に大反響を呼び、発行部数300万部を超える空前のベストセラーとなった経緯があります。
単なるハウツーにとどまらず、「夫婦が対等に向き合い、お互いの幸福を分かち合うための知恵」を提示した同書は、日本の家庭観に大きな変革をもたらしました。個人のライフスタイルが細分化した2026年の今、形骸化した義務感ではなく「心のつながりを伴う性生活」を取り戻すための原点がここにあります。