実生活におけるシングルマザーとしての血のにじむような体験は、風吹ジュンの演技に比類なき深みをもたらした。単なる記号的な「優しい母」ではなく、生活の匂い、弱さ、そして子どもを守るための冷徹なまでの強さを同居させた母親像である。
その真骨頂が発揮されたのが、名匠・是枝裕和監督が手掛けた名作『海街diary』だ。複雑な家庭環境の中で娘たちと距離を置きつつも、消し去れない肉親の情念を滲ませる母親役を、彼女は圧巻のリアリティで演じ切った。日本映画界が彼女の存在を重宝し続ける理由は、私生活の痛みを全て芸の肥やしへと昇華させてきた、女優としての覚悟にある。