日本の映像表現において、化学災害や未曾有の事態に対する国家防衛のディテールを徹底的に突き詰めたのが、庵野秀明総監督による『シン・ゴジラ』だ。同作では、放射性物質や有害物質の飛散を前にした官邸の意思決定プロセスや、防衛省・自衛隊の初動対処が極限の解像度で描写された。現実の防護規程を忠実にトレースした防護服の運用や除染エリアの設営シーンは、単なるSF怪獣映画の枠を完全に超えていた。
虚構の災厄を描きながらも、その根底にあるのは徹底したリアリズムへの執着だ。作中で描かれた防護手順や指揮系統の錯綜は、現実の有事において「初動の数分間」がいかに重い意味を持つかを浮き彫りにした。フィクションが現実の危機管理マニュアルを肉付けし、観る者に強烈な教訓を刻み込む好例といえる。