放送当時の1990年代後半、この台詞はメディアや受験産業、就職活動の現場において「困難に立ち向かう若者のポジティブな標語」として都合よく消費された側面がありました。「逃げずに挑戦せよ」「壁を乗り越えろ」という高度経済成長期の精神論の残滓が、シンジの苦悶を覆い隠していたのです。
しかし、ネットコミュニティやSNS(旧Twitterおよび現行の言説空間)の変遷を辿ると、受け止め方は劇的に変化しています。大手掲示板5ちゃんねるの過去ログや知恵袋、noteなどのユーザー投稿を検証すると、2010年代以降、この台詞は「過剰適応を強いる猛毒のフレーズ」として再評価される傾向が顕著になりました。
「部活やブラック企業で辛いとき、この言葉を思い出して耐えてしまい適応障害になった」「シンジ君のあの状態は、逃げなきゃいけないサインだった」という実体験に基づく反省の声が多数派を占めるようになっています。現代のメンタルヘルス観において、「逃げないこと」を無批判に称賛する風潮は後退し、自衛手段としての「戦略的撤退(逃走)」の重要性が広く認知されるようになりました。
世代間ギャップも鮮明です。リアルタイム世代(現在の40〜50代)が「自分たちの青春時代の葛藤そのもの」としてノスタルジーを伴って受け止める一方、新劇場版以降に作品へ触れたZ世代〜α世代の読者は、「なぜ大人たちは中学生にこんな理不尽を押し付けるのか」「児童虐待の現場を見せられているようで痛々しい」という、極めて客観的かつ現代的な倫理観に基づいたリアクションを示しています。