長年ファンの間で議論され続けているスラムダンク第二部が描かれない理由の核心は、作者である井上雄彦氏自身の極めて高い美意識と創作エネルギーの限界にありました。単行本31巻、IH(インターハイ)2回戦での山王工業戦。インターハイ3連覇中の絶対王者を相手に、湘北高校が死力を尽くして逆転勝利を収めた瞬間、物語としての熱量は頂点に達していました。
カルチャー誌『SWITCH』をはじめとする数々の井上雄彦インタビュー第二部に関する言及において、井上氏は「山王戦より面白い試合は描けない」「あれ以上の試合を描く自信がなかった」と率直に告白しています。トーナメント表が組まれた段階で、すでに作者の脳裏には「山王に勝つが、続く愛知学院大戦で力尽きて敗退する」という青写真が存在していました。無理にトーナメントを勝ち上がらせて優勝させるよりも、持てる力のすべてを出し尽くして散るリアリティこそが、井上氏の求めた「スポーツの真実」だったのです。
当時のジャンプ巻末コメントや関係者の回想録を検証すると、山王戦終盤の作画作業は肉体的にも精神的にも凄まじい領域に達していたことが分かります。セリフを極限まで削ぎ落とし、絵の力だけで息詰まる攻防を描き切ったラスト数十秒の描写は、漫画表現のひとつの到達点でした。燃え尽きるほどの熱量を注ぎ込んだ結果、物語をこれ以上商業的に引き延ばすことは、作品の命を汚す行為にほかなりませんでした。これが、スラムダンク最終回真相における最も本質的な答えです。