こうした再評価の背景には、日本史学・学術研究の急速な進展がある。国立歴史民俗博物館をはじめとする研究機関が主導する史料精査により、地方の農民文書や裁判記録、宗門改帳の緻密なデータ分析が進んだ。
ジェンダー史・女性史の視点がもたらした最大の収穫は、「女性が法的に無力化され、戸主の絶対的支配下に置かれたのは、江戸時代ではなくむしろ明治民法の制定以降だった」という逆説の発見である。江戸期の地域社会には、家督相続や名義保有において女性を柔軟に認める慣習が各地に残されていた。一握りの武士階級の規範が社会全体の現実であったかのような誤認は、実証研究の手によって次々と退けられている。