ポートマフィアにおいて「何でも屋」を請け負う最下級構成員に甘んじていた織田作之助。凶悪なマフィアの世界で拳銃の引き金を引かず、揉め事の調停や不発弾処理のような雑用ばかりを引き受けていた彼が命を落とすに至った経緯には、冷徹極まりない組織の力学と謀略が絡み合っていました。
発端は、欧州の亡命異能犯罪組織「ミミック(MIMIC)」のヨコハマ襲来でした。指揮官であるアンドレ・ジード率いるミミックは、国家の裏切りによって居場所を失い、戦場の中で誇りある死を渇望する亡霊のような戦闘集団。彼らを排除し、内務省異能特務課から合法的な組織活動を保障する「異能開業許可証」を手に入れたいポートマフィア首領・森鴎外は、極めて残酷な盤面を描きます。
森鴎外はミミックを完全に壊滅させるための「毒」として、ジードと全く同じ未来予知の異能を持つ織田作之助に白羽の矢を立てました。しかし、不殺を貫く織田作は簡単には戦場へ赴きません。そこで森鴎外は裏で情報を流し、織田作が洋食屋の2階に預けていた身寄りのない5人の孤児(幸介、克己、優、文一、さくら)の居場所をミミックに察知させたのです。
爆殺された孤児たちの乗ったバンを前に、織田作が抱き続けた「いつかマフィアを辞め、海の見える部屋で小説を書く」というささやかな夢は完全に灰燼に帰しました。己の生きる意味、不殺の誓いをすべて剥ぎ取られた彼は、太宰の必死の懇願と制止を振り切り、死に場所を求めるジードの待つ洋館へと単身乗り込むことになります。つまり彼の死は、敵による急襲ではなく、組織の首領によって綿密に仕組まれた生贄の儀式だったのです。