エンヤの音楽世界を語る上で欠かせないのが、彼女を取り巻く唯一無二の制作体制だ。ヴォーカルと作曲を手がけるエンヤ、深遠な詩の世界を構築する作詞家のローマ・ライアン (Roma Ryan)、そして音響空間を構築するプロデューサーのニッキー・ライアン (Nicky Ryan)。この3人の共同作業は、音楽界において極めて稀有な「三位一体の錬金術」と称されてきた。
ダブリン近郊にあるアイグル・スタジオ(Aigle Studios)で繰り広げられたレコーディングは、狂気とも呼べる緻密さで行われた。シンセサイザーの冷たい質感を排除し、エンヤ自身の肉声を最大で500回近くオーバーダビング(多重録音)する手法は本作でも健在だ。気の遠くなるようなテイクを重ね、ミリ単位で声の重なりとリバーブの減衰を調整していく。ニッキー・ライアンが目指したのは、オーケストラに匹敵するダイナミクスを人間の声だけで構築することだった。
ローマ・ライアンが紡ぐ言葉選びも秀逸を極める。彼女は単にメロディに言葉を乗せるのではなく、エンヤの声が最も美しく共鳴する母音や子音の組み合わせを計算し尽くして作詞を行っている。3人がスタジオに籠もり、長い歳月をかけて彫刻を掘り出すように生み出したからこそ、この楽曲には時代を超越した強度が宿っているのだ。