松井秀喜氏の去就を語る上で、切っても切り離せないのが長嶋茂雄終身名誉監督との絶対的な師弟関係です。1992年のドラフト会議で4球団競合の末に引き当てられて以来、東京ドームの監督室で連日行われた「素振り指導」は球界の伝説となっています。長嶋氏は松井氏にとって野球選手としての生みの親であり、人生の師匠そのものです。
2002年オフ、松井氏がフリーエージェント(FA)権を行使してニューヨーク・ヤンキースへの移籍を決断した際、日本国内では「巨人を裏切った」という痛烈なバッシングが巻き起こりました。そのとき、誰よりも松井氏の背中を押し、海を渡る愛弟子の決断を温かく包み込んだのが長嶋氏でした。2013年には東京ドームで長嶋氏と松井氏が揃って国民栄誉賞を授与され、師弟の絆は公的にも完結した美しい物語として結実しました。
しかし、この美しく神聖な師弟関係こそが、皮肉にも監督就任への心理的プレッシャーとして作用している側面は否定できません。巨人の監督席に座るということは、「長嶋茂雄の後継者」としての看板を一身に背負い、球団の勝利と伝統の継承という途方もない重圧と向き合うことを意味します。長嶋氏への純粋な敬愛があるからこそ、安易なタイミングや派閥争いに巻き込まれる形での監督就任を頑なに避けていると関係者は分析しています。