事件の舞台となったのは、塩尻市内で長年親しまれてきた歴史ある酒造会社だった。息を引き取った状態で発見された丸山希美さんの首には、強い圧迫痕がくっきりと残されていた。現場に足を踏み入れ直後に捜査員が感じたのは、言葉にできない異様さだったという。室内には物色された形跡がほとんど残されておらず、金品を目当てとした強盗事件としては明らかに説明のつかない点が多く見受けられた。
侵入口と目された箇所の解錠状態や、足跡の残され方にも自然さが欠けていた。長野県警察の捜査本部は、手際よく短時間で実行された犯行手口から、現場の構造や家族の生活サイクルを熟知している人物による内部的企ての線を取り調べの軸へと据えていく。静まり返った酒蔵で起きた惨劇は、周到に準備された計画的犯罪の影を色濃く宿していた。