「鶏が丸ごと一羽入っている」というビジュアルこそ似通っていますが、料理の設計図はまったくの別物です。最大の相違点は、タッカンマリとサムゲタンの具材の違い、そして「味の主導権が作り手にあるか、食べる側にあるか」という点に集約されます。
サムゲタン(参鶏湯)は、若鶏のお腹の中に高麗人参やもち米、乾燥ナツメ、ニンニク、栗などの漢方生薬・滋養素材を隙間なく詰め込み、長時間じっくりと煮込んだ料理です。スープ自体に生薬のエキスと鶏のゼラチン質、そしてもち米のデンプンが溶け出し、配膳された段階で料理としての味が完全に完成しています。提供形態もトゥッペギと呼ばれる黒い陶器鍋に入った「1人前」が鉄則です。
対するタッカンマリ(닭한マリ=鶏一羽)は、大きな金属製浅鍋に丸鶏、ぶつ切りのジャガイモ、長ネギ、トッポギ(韓国餅)を入れ、澄んだ淡麗鶏ガラスープでシンプルに煮立てる大衆鍋料理です。サムゲタンのように鶏の体内に薬膳素材を詰め込むことは一切ありません。何より最大の特徴は、スープ自体の塩分が控えめで、客自身が卓上調味料をブレンドして作る特製ダレで食べる点にあります。
さらにタッカンマリとサムゲタンの食べ方の違いも顕著です。サムゲタンはスプーンと箸を使い、柔らかく崩れる鶏肉を崩しながら、中から現れる熱々のもち米粥とともに静かに食すのが基本作法です。一方のタッカンマリは、煮え立つ大鍋から湯気が立ち上る中、豪快にハサミで切り分けた鶏肉を仲間と突き合い、最後に麺やご飯を投入してスープを一滴残さず平らげます。「個の養生食」と「集団のエンターテインメント鍋」、これが2つの料理を分かつ本質です。