「森林限界は何メートルにあるのか?」という問いに対し、日本全国共通の数字を答えることは不可能です。森林限界の標高は、緯度、降水量、地形、そして山の成り立ちによって劇的に変動します。
日本列島を南北に見渡すと、本州中部の日本アルプスの森林限界はおよそ標高2,500m前後に位置します。北アルプスや南アルプスを歩く際、標高2,500m付近に差し掛かるとそれまでのシラビソ林が途切れ、ハイマツと岩稜の世界へ突入するのはこのためです。しかし、これが北の大地に移動すると景色は一変します。
北海道の森林限界は大雪山系で約1,000〜1,500m、さらに北端に位置する利尻島(利尻山)ではわずか標高500m付近まで下がります。これは高緯度になるほど気温が低下するためで、北海道では本州の2,500m級に匹敵する冷涼な環境が、低標高の時点で出現してしまうからです。
一方で、単独峰である富士山の森林限界には別の要因が絡んでいます。富士山における高木の限界は概ね標高2,400〜2,500m付近(五合目から六合目あたり)ですが、本来の緯度や気温条件から計算すると、富士山では標高2,700m付近まで木が生えても不思議ではありません。富士山の森林限界が計算値より低くとどまる理由は、宝永大噴火をはじめとする度重なる噴火活動による火山砂礫の土壌にあります。雨水が瞬時に地下へ浸透してしまうため土壌が極端に乾燥し、強烈な吹き下ろしの突風によって若い苗木が根付かない環境要因が境界線を押し下げています。
世界の山岳と比較すると、広大な大陸内部の熱溜まり(マス・エレベーション効果)が働くチベット高原では標高4,900m付近まで木が生育できます。四方を海に囲まれ、冬に大量の寒気と強風が吹き込む日本列島は、世界的に見ても「非常に低い標高で森林限界に到達する特異な山岳環境」を持っています。