徳島県の麺文化はラーメンだけにとどまりません。日本三大秘境のひとつに数えられる三好市の祖谷渓周辺で受け継がれてきたのが、素朴で力強い郷土食「祖谷そば(いやそば)」です。
昼夜の寒暖差が激しく急峻な山肌が広がる祖谷地方は、古くから良質な蕎麦の栽培適地でした。祖谷そばの最大の特徴は、一般的な蕎麦のように小麦粉などのつなぎをほとんど使わず、地元産蕎麦粉をふんだんに用いる点にあります。そのため麺は太めで短く、啜るというよりは噛みしめて蕎麦本来の野趣あふれる香りを楽しむスタイルです。祖谷名物の「岩豆腐」や山菜、甘辛く煮た祖谷川のあめご(アマゴ)の甘露煮を乗せていただく一杯は、厳しい自然とともに生きてきた山里の知恵を感じさせます。
一方、県中央部に位置する阿波市土成(どなり)町の名物が「たらいうどん」です。吉野川の支流・宮川内谷川沿いを中心に専門店が点在し、大きな木製の平釜(たらい)に熱々の茹で汁ごと泳がせた手打ちうどんを、複数人で囲んで食べる独特の文化です。つゆには川魚である「じんぞく(カワヨシノボリ)」から取った滋味深い出汁が使われており、モチモチとした太麺に出汁の効いた温かいつゆが絡みつく瞬間は、格別の幸福感を味わえます。