事態の始まりは唐突だった。ゆりかもめ日の出駅近くの防潮扉に、型紙の上からスプレーを吹き付けるステンシルグラフィティの手法で描かれた小さなネズミ。片手に傘、もう片手に鞄を持ったその姿は、本物のバンクシー作品のトレードマークそのものだった。通常であれば、道路管理者がペンキで塗り潰して終わる日常の一コマに過ぎない。しかし、情報を聞きつけた都トップの動向がすべてを変えた。
小池知事が視察に訪れ、写真をSNSに投稿すると、現場には一目見ようと大勢の市民が殺到。警備員が配置されるという異例の事態に発展した。法治国家における物損壊壊行為と、数億円の価値を生み出す現代アートの巨匠の作品。東京都が迫られた二者択一は、伝統的な行政理論を根本から揺さぶるものだった。