道尾のキャリアにおける大きな転機となったのが、詐欺師たちの温かな連帯と逆転劇を描いた『カラスの親指』だ。従来のダークで重厚な作風とは一線を画し、ユーモアと哀愁が交差するサスペンスとして絶賛を浴びた。ラストに用意された伏線の見事な回収劇は、ミステリー通を唸らせると同時に、より幅広い層へと彼の名を浸透させた。
そして2011年、幼少期の揺れる感情と生々しい人間の葛藤を描いた『月とカニ』によって、栄誉ある第144回直木三十五賞を受賞する。少年の繊細な心理描写と、地方の閉塞感の中で蠢く感情のドラマ。本格ミステリーで培ったロジカルなストーリー構成と、純文学にも匹敵する深い人間観察が結実した瞬間であった。直木三十五賞の獲得により、彼は名実ともに日本文学界のトップランナーとしての地位を確固たるものにした。