大判焼きの呼称問題を語る上で外せないのが、地元に根付いた特定チェーンの屋号がそのまま普通名詞化したケースだ。セロハンテープを「セロテープ」、ステープラーを「ホッチキス」と呼ぶのと同様の現象が、和菓子の世界でも起きている。
その筆頭格が、兵庫県姫路市に本社を置く「御座候(ござそうろう)」だ。1950年(昭和25年)の創業以来、職人がガラス越しに手焼きする実演販売スタイルと、北海道十勝産小豆を贅沢に使った高い品質で絶大な信頼を獲得。関西圏のデパ地下や主要駅ナカを中心に展開し、関西人にとっては「御座候を買って帰る」という表現が完全に日常語として定着した。
東北・北関東エリアで同様の絶対的地位を誇るのが、山形県天童市発祥の「あじまん」だ。主に秋から春先にかけての冬季限定でスーパーやホームセンターの軒先にプレハブ店舗を出店。薄皮の中に限界まであんこを詰め込んだ素朴な味わいは、豪雪地帯の冬の風物詩として熱烈に愛されている。
さらに九州では、1953年に水俣市で創業した「蜂楽饅頭」がそのポジションを担う。自社養蜂場の純粋蜂蜜を生地に練り込み、独特のしっとり感と豊かな風味を実現した名物菓子であり、福岡や熊本の百貨店では連日行列が絶えない。
これらの地域では、「大判焼き」や「今川焼き」と呼ぶよりも「御座候」「あじまん」「蜂楽饅頭」と呼ぶ方が、味やクオリティのイメージが即座に共有できるという実用的な理由がある。