大腸憩室炎が単なる局所感染から命に関わる重症病態へと暗転する境界線は、腸壁に穴が開く「穿孔(せんこう)」と、それに続く「腹膜炎」の発生です。憩室の壁はもともと筋肉層を欠いており、極めて薄い構造をしています。内部の圧力が限界を超え、炎症によって組織がもろくなると、容易に微小な穴(マイクロパフォレーション)が生じます。
微小穿孔の段階であれば、周囲の大網や脂肪組織が壁となって炎症を局所に封じ込め(限局性腹膜炎)、抗菌薬治療で軽快することも少なくありません。しかし、穴が大きく開いて便や腸内細菌が腹腔内全体へ漏れ出すと、「汎発性腹膜炎」へと直結します。見逃してはならない大腸憩室炎の穿孔・腹膜炎の前兆には、以下のような特徴的な身体サインがあります。
第一に、痛みの範囲の急拡大です。それまで左下腹部や右下腹部の特定ポイントに限られていた痛みが、わずか数時間でお腹全体に燃え広がるように拡大します。第二に、腹壁の緊張です。お腹を触ると本人の意思とは無関係にお腹の筋肉がカチカチに硬直する「筋性防御(デファンス)」や、板のように硬くなる「板状腹(ばんじょうふく)」が現れます。第三に、押したときよりも「押した手をパッと離した瞬間に激痛が走る(ブルンベルグ徴候・反跳痛)」状態です。
これらのサインが出現した場合、体内では細菌が血流に乗って全身に広がる「敗血症ショック」のカウントダウンが始まっています。血圧の急低下、全身の冷や汗、浅く速い呼吸、意識の混濁がみられる場合は一刻の猶予もありません。自家用車でのんびり病院を探すのではなく、即座に119番通報で救急車を要請すべき絶対的危険水域です。