幼少期の宗次徳二は、電気も水道も止まった部屋で雑草を口にするほどの極限状態を生きていた。養父のギャンブル、夜逃げ、極度の困窮。しかし、この壮絶な生い立ちこそが、彼の人間観察力と深い共感能力を研ぎ澄ませた。後年、彼が社内で最も重視したのは、店舗に寄せられるお客様アンケートのハガキ全件に自ら目を通すことだった。早朝の街頭清掃を日課とし、接客の現場に立ち続けた姿勢は、会社の基本精神として脈々と流れている。
創業者が早期のリタイアを決断し、同族経営を完全に排してプロ経営者へのバトンタッチを行った点も極めて革新的だった。同族での世襲を狙う企業が多い中、実力と理念の継承を最優先したこの決断が、今日の強靭な組織基盤を創り上げたのだ。