弁護士・城戸が執念の調査の末に突き止めた「ある男」の正体、それはかつて将来を嘱望されたプロボクサー、原誠(はら まこと)でした。
誠には、決して逃れられない過酷な宿命がありました。実の父親が凄惨な無差別殺人事件を起こした死刑囚だったのです。世間からの容赦ないバッシング、行く先々で付きまとう好奇の目、そして何よりも「自分の中にも凶悪殺人犯と同じ血が流れているのではないか」という拭いきれない恐怖。鏡を見るたびに父の面影がフラッシュバックする苦痛に耐えかねた誠は、自分の存在そのものを消し去りたいと切望するようになります。
一方、本物の谷口大祐(仲野太賀)は、伊勢の老舗旅館の後継ぎとしての重圧や、家族との不仲から逃げ出したがっていました。「名前を捨てたい男」と「名前から逃げたい男」。利害が一致した二人は、服役中の戸籍ブローカー・小見浦憲男(でんでん)を介して戸籍交換を実行します。誠は「谷口大祐」という新たな名前を手に入れ、宮崎で里枝と出会い、ようやく人間らしい温もりを手に入れたのでした。
なお、本作に特定の「単一の実話事件」という直接のモデルはありません。しかし、昭和から平成にかけて社会問題となった実際の戸籍売買や、他人の戸籍を背負って生きる人々に関する膨大なルポルタージュや司法資料が背景として綿密にリサーチされており、極めて生々しいリアリティを放っています。