日本の海岸線は、複雑な岩礁帯、広大な干潟、外洋に面した砂浜など多様な環境が連続しており、それぞれのニッチ(生態的地位)に適応した多種多様なカニが定着しています。磯遊びで最も頻繁に遭遇するのは、潮間帯の岩場を根城にするイソガニやヒライソガニです。これらは甲羅の幅が2〜3cm程度と小ぶりで、石をひっくり返すと素早く横歩きで逃げ出す姿が観察されます。甲羅に緑褐色の斑紋があり、歩脚に横縞模様が入るものがイソガニ、甲羅が平らで色彩の個体変異が著しいものがヒライソガニと識別されます。
一方、外洋の波が打ち寄せるサラサラとした砂浜に目を向けると、全く異なる形態を持ったカニが支配的な地位を築いています。それがスナガニやコメツキガニです。特にスナガニは、昼夜を問わず砂浜に直径数センチの垂直な巣穴を掘り、時速十数キロとも形容される驚異的なダッシュ力で捕食者から逃れます。白っぽく半透明な体色は砂利や白砂への完全なカモフラージュとなっており、海辺の環境ごとに進化の方向性が大きく異なっている事実を物語っています。
さらに、潮が引いた時の潮だまり(タイドプール)の奥深くや海藻が茂る岩礁の裂け目には、より大型で筋肉質なショウジンガニや、遊泳能力に特化したガザミ(ワタリガニ類)が姿を現します。これらの多様な生物を正しく見分ける第一歩は、「どの環境の、どのような深さにいたか」という生息位置の把握にあります。潮の満ち引きによって露出する浅瀬だけでも、十数種以上の異なるグループが明確に棲み分けを行っているのです。