初期の代表作を読み終えたファンが次に求めるのは、より緻密で仕掛けに満ちた物語だ。複層的なタイムラインと視点が鮮やかに交錯する『ラッシュライフ』は、構造美の極致とも言える作品である。バラバラに思えた四つの物語が収束していく快感は、パズルが完璧にはまった瞬間の快感に似ている。
死神が人間の死を判定する『死神の精度』シリーズや、連作短編集の形式をとりながら全体が大きな円環を描く作品群など、アイデアの引き出しの多さには脱帽するしかない。何気ない一行のセリフや、一見無意味に思える小道具が、終盤で劇的な意味を持つ瞬間。それこそが彼の構築するミステリー小説の真骨頂である。
こうした実験的かつ野心的なアプローチは、単なるエンターテインメントにとどまらず、日本の出版業界全体に新鮮な刺激を与え続けてきた。一度そのトラップにハマれば、二度目の再読時には全く異なる景色が見えてくるはずだ。