映画『ドラえもん』シリーズにおいて、出木杉くんは序盤の教室や空き地のシーンに登場し、古代文明の謎や天文学の基礎知識、オカルト伝説の科学的裏付けをのび太たちに分かりやすく解説する「案内人」としての役割を担うのがお決まりのパターンとなっています。しかし、いざ異世界や宇宙、過去・未来への大冒険へ旅立つ段になると、「塾の夏期講習がある」「家族旅行の予定が入っている」といった理由で必ず日常空間に残され、のび太、しずか、スネ夫、ジャイアンの5人だけで旅立つ展開が徹底されてきました。
この出木杉くんが映画に出ない理由について、原作者の藤子・F・不二雄氏が生前のインタビューや対談で語った創作論によれば、「出木杉を連れていくと、秘密道具を駆使する前に論理的思考で危機を回避してしまい、物語が30分で終わってしまう」という極めて現実的なドラマツルギーの都合がありました。大長編ドラえもんの醍醐味は、普段は頼りないのび太たちが極限状態の中で知恵を絞り、恐怖に打ち勝ちながら友情を深めていく成長劇にあります。最初から冷静沈着で正解を導き出せる出木杉くんがパーティーに加わってしまうと、サスペンスや葛藤が霧散してしまうのです。
また、ドラえもん映画における出木杉くんの留守番理由には、視聴者である子どもたちに対する「日常のアンカー(錨)」としての機能もあります。非日常の冒険へ飛び立つ5人と対比させ、読者の現実世界を象徴する存在として彼を町に残すことで、冒険の非日常性とスリルをより際立たせる計算された演出意図が働いています。