インターネット上の掲示板や簡易マナー解説サイトでは、「相手に持ってきてもらう時は『ご持参いただく』と書けば完璧」と短絡的に紹介されている場面が目立ちます。しかし、ここにはプロの現場だからこそ見逃せない落とし穴が存在します。
「ご持参いただく」というフレーズは、文法構造としては「相手の持参(動作)」+「いただく(もらうの謙譲語)」で構成されており、誤りではありません。しかし、「持参」という語が持つ事務的で硬直した語感と、「いただく」という相手の好意を前提とした語感が混ざり合うことで、受け手によっては「持ってこさせて当然」という高圧的なニュアンスを感じ取ってしまうリスクがあります。
特に富裕層向けのカスタマーサポートや、社会的地位の高い取引先を自社イベントへ招致する文面において、「案内状をご持参いただきます」と記載するのは避けるのが賢明です。この場合は和語の持つ柔らかな響きを活かし、「恐縮ではございますが、当日はこちらの案内状をお持ちくださいますようお願い申し上げます」と言い換えるのが、品格あるビジネスコミュニケーションの定石です。
また、「お持ちになられてください」という言い回しも、ネット上のやり取りで散見される悪名高い二重敬語(「お〜になる」+「られる」)です。敬意を重ねようと焦るあまり、文法的に破綻した奇妙な言葉を量産してしまう心理的トラップには、常に警戒を払わなければなりません。