『なつぞら』の物語において、視聴者に最も強烈なカタルシスと切なさを残したのが、吉沢亮が演じた山田天陽の生き様でした。放送期間中、SNS上では「#天陽くん」が連日のようにトレンドを席巻し、第118回前後で描かれた彼の早すぎる死は、いわゆる「天陽ロス」と呼ばれる巨大な社会的反響を巻き起こしました。
天陽の人物像には、実在した画家・神田日勝(かんだ・にっしょう/1937〜1970)の生涯が色濃く反映されています。神田日勝は東京・練馬に生まれ、戦時中に一家で北海道十勝の鹿追町へ疎開。過酷な開拓農業に従事しながら、ベニヤ板にペインティングナイフで油彩画を描き続けました。腎盂炎による敗血症のためわずか32歳で夭折し、絶筆となった未完の油彩画『馬(絶筆・未完)』は、現在も北海道の神田日勝記念美術館に展示され、多くの人々を惹きつけてやみません。
作中で天陽が吹雪の中でベニヤ板に馬の絵を描き残し、静かに息を引き取る描写は、史実の神田日勝に対する深い敬意とオマージュが込められていました。吉沢亮はインタビュー等において、「天陽はなつにとっての憧れであり、北海道の土そのもの。彼が内に秘めた孤独と静かな情熱を、作為的な芝居ではなく佇まいで表現したかった」と語っています。泥にまみれながら崇高な美を追求した青年の肖像は、本作の芸術的到達点となりました。