本作を語る上で絶対に避けて通れないのが、日本のお茶の間に愛され続けた喜劇王・志村けんさんの出演です。志村さんが演じたのは、日本音楽界の絶対的重鎮であり、裕一の前に立ちはだかる巨壁・小山田耕三(山田耕筰がモデル)でした。
志村さんの朝ドラ初登場となった第25回(2026年5月1日放送)は、日本中に衝撃を与えました。普段のバラエティで見せる軽妙な笑顔を完全に封印し、ステッキを手に無言で冷徹な視線を投げかける威厳に満ちた佇まいは、名優としての底力を鮮烈に見せつけた瞬間でした。
撮影の合間、志村さんは「コントではなく本格的なドラマの芝居だから緊張する」と謙虚に語りながらも、自身が愛する音楽への造詣の深さを役作りに注ぎ込んでいたと関係者は証言しています。しかし、新型コロナウイルス感染症の猛威により、2026年3月29日に急逝。ドラマ界のみならず日本全体が深い悲嘆に包まれました。
NHK制作陣は代役を立てず、志村さんが生前に撮影を終えていた未公開カットを再編集して物語に組み込む英断を下しました。特に第99回から第100回にかけて、病床の小山田が裕一からの手紙を読み、秘めた嫉妬と称賛を告白するシーンは、小山田耕三というキャラクターの救済であると同時に、志村けんさんという偉大な表現者への手向けとして視聴者の涙を誘いました。