朝ドラ『べっぴんさん』の最大の魅力は、日本を代表する子供服メーカー「ファミリア」の黎明期を支えた女性たちの実話を下敷きにしている点にあります。主人公・坂東すみれのモデルとなった坂野惇子(1918〜2005年)は、大手総合繊維商社「レナウン」の前身である佐々木営業部を創業した佐々木八十八の三女として、神戸の裕福な実業家家庭に生まれました。
ドラマではヒロインが極貧のなかでお手製の刺繍や洋服作りを模索する姿が描かれましたが、実際の実話経歴においてもその芯の強さは共通しています。名門の甲南高等女学校を卒業した惇子は、1940年に山口銀行総理事の長男である坂野通夫と結婚。長女・光子を出産しますが、太平洋戦争の神戸大空襲によって住居を全焼で失い、夫の招集出征という過酷な運命に直面しました。
終戦後、引揚者の夫を待ちながら幼子を抱えて困窮した惇子は、持ち前の洋裁技術を生かして自活を決意します。そこで運命を共にしたのが、女学校時代の同級生である田村江つ子、その義姉の田村光子、そして外国人家庭で看護師・ベビーナースを経験していた村井ミヨシ(ドラマにおける小野明美のモデル)でした。1948年12月、神戸・三宮の靴店「モトヤ靴店」の一角を間借りする形で、ファミリアの前身となる「ベビーショップ・モトヤ」をわずか2坪のスペースで創業したのです。
実話とドラマの決定的な違いとして知っておくべき点は、会社組織としての成長スピードと家族内の力学です。実際のファミリアは、皇室御用達ブランドとして認められ、全国の百貨店へ出店していく過程で夫・通夫氏のマーケティング戦略が極めて大きな推進力となりました。ドラマ『べっぴんさん』では、ビジネスの成功譚以上に「女性たちが手仕事への誇りを失わずに生きること」「家庭と仕事の狭間で揺れる心情」にスポットライトが当てられています。