最愛の長男の死という、言葉を絶する喪失感。草刈正雄は一時、俳優活動の継続すら危ぶまれるほどの深い絶望の淵に沈んだ。食事も喉を通らず、自宅に引きこもる日々が続いたという。そんな彼を再び立ち上がらせたのが、周囲の温かい支えと役者としての矜持だった。
事故の翌年に放送されたNHKの大河ドラマ『真田丸』。草刈が演じた戦国武将・真田昌幸は、時に策士として冷徹に、時に父として深い情愛を滲ませる稀代の名演となった。劇中で見せた圧倒的な眼力、命を燃やすようなセリフの数々は、彼自身の人生の苦悩と哀切を昇華させたかのようであった。「昌幸ロス」という社会現象を巻き起こしたその演技は、息子の魂とともに歩んだ渾身の表現だったと言えよう。
現在でもNHKオンデマンドなどを通じて多くの視聴者がこの作品に触れ、草刈正雄という名優の底力に心を震わせている。