ネット上に散見される低評価。その多くを分解すると、明確な3つのカテゴリーに収斂する。第一に挙げられるのが「接客態度」への不満だ。1泊1室あたり高価格帯の宿泊費用を支払う客層は、ホテルライクな至れり尽くせりのサービスを期待しがちである。だが、ての字屋の接客スタイルは昔ながらの距離感を保つ伝統的な割烹旅館の流儀。これが一部の宿泊客には「素っ気ない」「配慮が足りない」と映ってしまうようだ。
第二の要因は「建物の老朽化」である。数百年余の歴史を紡ぐ木造数寄屋造りは、建築美として見事な意匠を凝らしている。しかし、エレベーターの不在や階段の移動、木造ゆえの防音性の限界は、最新のラグジュアリーホテルに慣れ親しんだ世代にとっては不便さに直結する。「レトロな風情」と捉えるか、「古くて不快」と切り捨てるかで評価が真逆に分かれるのだ。
そして第三が「料理の評判」を巡る期待値ギャップだ。地場の厳選食材を活かした本格的な懐石料理は繊細な味付けが身上だが、派手でボリューム重視の宴会料理やフュージョンディナーを想像していた層からは「地味」「価格に見合わない」との声が漏れる。悪評の正体は、宿が提供する伝統文化と顧客が求める現代的利便性のミスマッチにあると言えるだろう。