日本の刺繍界において、自然物を愛でる眼差しを定着させた功績は計り知れない。庭の草花や小さな生き物を詩情豊かに描き出す青木和子のナチュラルな世界観は、てんとう虫を一輪のハーブにそっと寄り添わせる構図の美しさを教えてくれる。植物の茎と小さな虫の共生を写し取るその視点は、現代のボタニカル刺繍の基礎となった。
一方で、緻密な幾何学美と洗練された技術で知られる戸塚刺繍の創始者・戸塚貞子が遺した技法体系は、狂いのない正確な針目の重要性を今に伝えている。現在、公益財団法人日本手芸普及協会などが主催するセミナーでも、伝統的な技法をいかに現代的な立体表現へと昇華させるかが探求されており、先人たちの知恵が次世代のステッチャーたちへと確実に受け継がれている。