御影の急坂を登ると、鬱蒼とした木立の合間から重厚な御影石の石垣が姿を現す。文豪・谷崎潤一郎が居を構え、名作の情景を紡ぎ出したこの地は、映画『細雪』の華麗かつどこか切ない世界観そのものだ。
大正から昭和初期にかけて花開いた阪神間モダニズム。実業家や文化人たちがこぞって洋風邸宅や和洋折衷の名建築を建てた歴史が、今なお街並みの背骨を成している。しかし、名門財界人の邸宅が相続を機に細分化され、建売住宅へと姿を変える事例も後を絶たない。景観協定や市民運動によって風格を守ろうとする住民のプライドと、時代の波。歴史ある邸宅街の品格をいかに次世代へ手渡すか、御影は今その試金石の前に立っている。