納沙布岬を訪れる最大の動機は、水平線のすぐ向こうに広がる北方四島の姿をこの目で確かめることにある。岬の高台に整備された「北方館・望郷の家」の展望室には高性能な望遠鏡が並び、北海道庁が発信する返還運動の歩みや現地の生活史を深く学ぶことができる。
ここからわずか3.7キロメートルの距離にある貝殻島には、かつて日本人が建設し、現在は傾いたまま哀愁を漂わせる灯台が肉眼でもはっきりと確認できる。さらに天候に恵まれれば、水晶島や勇留島、遠く国後島の雄大な山並みまでが一望の下に広がる。息を呑むほどの近さに圧倒されると同時に、国境線を挟んだ海の静けさが強烈なコントラストとなって胸に迫る。
視界のクリアさを求めるなら、空気が澄み渡る秋から初冬、あるいは春先の午前中が狙い目だ。夏の霧が晴れ渡った瞬間に突如として現れる島影の美しさもまた、旅情を掻き立てる格別の光景といえる。