「本 こわ」という言葉の裏には、フィクションとしての小説だけでなく、現実に存在する「気味の悪い本」への関心も含まれている。神保町の裏通りに店を構える古書店の店主は、声を潜めてこう明かした。
「たまにね、妙な本が持ち込まれるんです。ページの余白全体にびっしりと狂気的なメモが書き込まれていたり、特定のページだけが破り取られていて、なぜか何度棚に戻しても床に落ちているような本が。そうした本は買い取っても売りに出さず、お祓いに回すこともありますよ」
物質としての本は、前の持ち主の情念や執着を吸い込む入れ物になり得る。デジタルデータには残らない「人の生の痕跡」こそが、時に最も恐ろしい怪異となる。