『島人ぬ宝』の最大の特徴は、一般的なご当地ソングにありがちな「郷土の誇るべき歴史や自然の美しさを声高に誇示する」姿勢をあえて取っていない点にあります。冒頭から「僕が生まれたこの島の空を 僕はどれくらい知っているんだろう」と内省的な問いかけから始まります。
作詞クレジットは「BEGIN」名義となっていますが、実質的には石垣島の中学生たちとBEGINによる共同創作といえます。歌詞の中に散りばめられた重要なキーワードと方言の背景を整理します。
まずタイトルの「島人(しまんちゅ)」は沖縄の方言で「島に生きる人々、沖縄の人々」を指し、「ぬ」は古語の連体助詞「の」に相当します。すなわち「島人の宝=島に暮らす私たちが大切に受け継ぐべきかけがえのないもの」を意味します。
さらに歌詞中には、八重山地方を代表する民謡の名称が登場します。「トゥバラーマ」は八重山諸島に古くから伝わる叙情歌の最高峰であり、名人が即興で情感豊かに愛や情景を詠み上げる難度の高い無伴奏民謡です。また「デンサー節」は教訓歌として親しまれ、人の道や親への感謝を説く伝統曲です。これらを「歌えない」「知らない」と素直に認めつつも、テレビや教科書には載っていない「砂にまみれて波にゆられる日常の海」を誰よりも知っていると結ぶ構成は、形式的な伝統主義を超えた生きたアイデンティティを浮き彫りにしています。