この店の心臓部を担うのが、メキシコ・モンテレイ出身の店主マルコ・ガルシア(Marco Garcia)氏だ。彼が何よりも固執するのは、メキシコのオアハカ州をはじめとする契約農家から直接仕入れるブルーコーン(メキシコ在来種トウモロコシ)の品質である。遺伝子組み換えとは無縁の、何世代にもわたって受け継がれてきた原種のトウモロコシだけが持つ力強い大地のアロマが、すべての料理の起点となる。
トウモロコシを真の主食へと変貌させる鍵が、数千年前のマヤ・アステカ文明から受け継がれるアルカリ処理技術「ニシュタマリゼーション(Nixtamalization)」だ。乾燥したトウモロコシを石灰水でじっくりと煮込み、一晩寝かせて皮を柔らかくすることで、結合していたナイアシン(ビタミンB3)が遊離し、消化吸収性と栄養価が劇的に跳ね上がる。さらに、独特のナッツのような芳香と粘り気が生まれるのだ。
毎朝未明、店内の石臼で丁寧に挽かれてペースト状の「マサ」となり、注文が入る直前に手のひらで丸められ、トルティーヤプレスで均一な薄さに伸ばされる。熱々のコマールの上で過ごす時間はほんの数十秒。膨らみ、水分が閉じ込められた瞬間に客の前へ供される一枚は、トウモロコシが「野菜」であり「命」であることを舌先へダイレクトに突きつけてくる。