『宝石の国』が全108話で完結したという事実は、本作のバックボーンにある仏教思想(108の煩悩)を雄弁に物語っています。人間の持つ108の煩悩、三毒(貪・瞋・癡=欲望・怒り・無知)に翻弄され続けたフォスの歩みそのものが、衆生が解脱へと至る過酷な修行のメタファーでした。
単行本第13巻の加筆や装丁にも、この哲学的メッセージが凝縮されています。フォスが手に入れた「祈りの力」は、全能の魔法ではなく、すべてを受け入れ、すべてを手放すことによって初めて発動する力でした。自らの存在意義を求めてあがき続けたフォスが、最後に「何も持たないことの豊かさ」に到達するプロセスは、仏教における悟りそのものと言えます。
連載完結時、アフタヌーン本誌に掲載された扉絵やラストカットの余白の美しさは、読者に静かな祈りにも似た読後感をもたらしました。破壊と再生の物語でありながら、血生臭い戦闘の果てに用意されていたのは、どこまでも透明で澄み渡った静寂の宇宙でした。