ソーシャルメディア上では、在日ベトナム人によるコミュニティグループ(登録者数数十万人規模のFacebookグループ「Cộng đồng người Việt tại Nhật Bản」など)において、日々極めて実践的な地図情報が共有されています。メディアの報道や公的パンフレットには載らない、当事者ならではの切実な肉声がそこには溢れています。
「ハノイの送り出し機関では『東京は給料が高い』とだけ教わったが、実際に来てみると家賃と物価で手残りがほとんどない。愛知県豊田市や小牧市で働く友人の方が、車を持ち広い部屋で貯金できている」(20代・自動車部品工場勤務男性の手記)
「地図で隣町に見えても、電車が1時間に1本しかない路線だと知らずに工場近くのアパートを借りて孤立した。ベトナム語の鉄道路線図で『単線か複線か』『終電の時間』まで確認すべきだった」(30代・食品加工業女性のSNS投稿)
こうした現場のリアルから生まれたのが、民間有志や支援団体によって作成される在日ベトナム人向け地域マップです。このマップには、行政施設だけでなく、以下の要素がピン留めされています。
- 本場の香辛料や冷凍食品を扱うベトナム食材店(Quán tạp hóa Việt Nam):食生活の維持だけでなく、コミュニティの掲示板や情報交換所として機能。
- ベトナム語通訳が常駐、もしくは遠隔通訳対応が可能な総合病院:夜間救急や産婦人科対応の情報は、家族帯同世帯にとって生命線。
- 仏教寺院(Chùa Việt Nam):愛知県や埼玉県、神奈川県などに建立された寺院の位置情報は、旧正月(テト)や盂蘭盆会の精神的拠り所。
- 日本地図観光スポット評判:富士山(Núi Phú Sĩ)、京都の金閣寺、浅草寺といった王道名所から、休日に車で行ける近郊のBBQ場や果物狩り農園の評判。
公的な地図が「土地の区画」を示すのに対し、彼らが共有するマップは「異国の地で人間らしく生き延びるためのセーフティネット」として機能していることが現場取材から痛感されます。