写真は現実を記録するだけでなく、人々の願望を投影するスクリーンにもなる。司馬遼太郎の金字塔的歴史小説『竜馬がゆく』によって、龍馬は「時代を先駆ける孤高のロマンチスト」として日本人の心に刻まれた。そのとき、読者の脳裏に常に浮かんでいたのが、あのブーツ履きの立ち姿写真だ。
この強烈な視覚イメージは、メディアの発展とともに増幅していく。2010年の大河ドラマ『龍馬伝』では、写真に写る泥臭くも力強い佇まいが徹底的に再解釈され、従来の英雄像に新たなリアリティを吹き込んだ。一枚の写真が文学を刺激し、映像表現を革新し、国民的ヒーローの血肉となっていく。視覚メディアとしての幕末古写真が持っていた影響力は、現代の熱狂をも凌駕している。