境内の東側にひっそりと佇みながら、女性参拝者や美容関係者の行列が絶えない末社が「美御前社(うつくしごぜんしゃ)」です。ここに祀られているのは、素戔嗚尊の剣から生まれた宗像三女神(多岐理比売命・多岐津比売命・市杵島比売命)。なかでも市杵島比売命は類まれな美貌の持ち主として知られ、古くから美の象徴として崇敬されてきました。
社殿前に湧き出る八坂神社の美御前社にある美容水は、わずか2〜3滴を手にとって肌になじませることで、容姿のみならず内面や心までも清らかに美しく整える神水として親しまれています。祇園の花街に生きる舞妓や芸妓、芸能関係者が日常的に参拝に訪れる姿は、この場所が単なる願掛けスポットではなく、美意識を磨き続けるプロフェッショナルたちの信仰の拠点であることを物語っています。
さらに八坂神社には、古くから語り継がれる「八坂神社の七不思議」と呼ばれるミステリアスな見どころが点在しています。
- 西楼門の雨だれ知らず:四条通に面する西楼門には雨だれの跡がつかず、蜘蛛が巣を張らないと伝えられています。木造建築の構造と風通しの計算が生み出した奇跡とも称されます。
- 本殿下の龍穴と池:本殿の真下には巨大な池があり、大地の気が吹き出す龍穴となっているという伝承。神職ですら足を踏み入れることが許されない最深の禁足地です。
- 夜御座(よのおまし)の御神水:本殿下の龍穴から湧き出る水は御神水とされ、古来より不可侵の聖なる泉として守られています。
- 二見岩(ふたみいわ):大神宮社の内宮と外宮の間に位置する巨岩で、地中深く龍宮まで根が伸びていると信じられています。
- 忠盛燈籠(ただもりとうろう):白河法皇が雨の夜、妖怪と見誤って平忠盛に討伐を命じたものの、忠盛が正体を見極め老僧の油注ぎであると看破したことで知られる、思慮深さの象徴とされる石燈籠です。
- 祇園鳴門(ぎおんなると)の木:根元から鳴門の渦のような模様が浮かび上がる不思議な神木。
- 力石(ちからいし):触れることで活力が湧き出ると伝わる霊石。
これらは単なる怪談や奇談ではなく、当時の人々が神域の尊厳を守り、自然界への畏怖の念を後世へ語り継ぐために遺した文化装置といえます。