アラビア語圏における猫の地位を語る上で欠かせないのが、7世紀に生きた予言者ムハンマドの逸話だ。彼には「ムエザ」(Muezza)という名の愛猫がいたとされる。ある日、礼拝の時間になり、ムハンマドが衣装を羽織ろうとしたところ、長袖の上でムエザが気持ちよさそうに眠っていた。彼は猫を起こすのを忍びなく思い、なんと自分の服の袖を切り落として静かに立ち去ったという。
この心温まる伝承は、イスラム文化において猫がどれほど神聖視され、慈しまれてきたかを雄弁に物語る。犬とは対照的に、猫は宗教的にも「儀式的な清浄さを保つ動物」と定められている。モスクの内部に入ることが許され、礼拝中の信者の膝に乗ってきても追い払われることはない。猫の水飲み場の水でさえ、礼拝前の身体のお清め(ウドゥー)に使えるほど清らかだとみなされているのだ。