アンティポディーズ諸島が一般人の上陸を完全に禁止している背景には、単なる安全面だけではない、国際的にも極めて重要な自然保護上の理由が存在します。ニュージーランド環境保全省(DOC: Department of Conservation)は、この島への立ち入りを最高レベルの法的制限である「Nature Reserve(自然保護区)」に指定しています。
一般人の立ち入りが拒まれる主な理由は以下の3点に集約されます。
第一に、極めて脆弱な固有生態系の防衛です。島には他地域では見られない固有の鳥類、無脊椎動物、植物が独自の進化を遂げています。靴底に付着したわずかな植物の種子や、衣服に潜む微生物、カビなどの病原菌が持ち込まれるだけで、閉ざされた生態系が一瞬で崩壊するリスクを孕んでいます。
第二に、外来生物の再侵入防止です。過去に人間の活動によって持ち込まれたネズミなどの外来種は、島の海鳥たちに壊滅的な被害を与えました。巨額の費用と年月をかけて外来種を完全排除した経緯があるため、現在の上陸手続きは厳格を極め、許可を得た研究者であっても完全なバイオセキュリティ(検疫)チェックが義務付けられています。
第三に、上陸インフラの完全な欠如と極端な危険性です。島全体が切り立った断崖絶壁に囲まれ、港湾施設や安全な船着き場は一切存在しません。接岸を試みる船は常に激浪にさらされ、座礁や転覆の危険と隣り合わせです。救助隊の派遣すら困難な極限地であるため、管理体制を維持する観点からも一般人の立ち入りは厳に禁じられています。